「接遇のチカラ」 (27) 声のトーンで意思を伝える~思っていても伝わらない

松原里美(まつばらさとみ)

 こんにちは!第2・4月曜日を担当するコミュニケーション講師の松原です。
 前回まで、体の動き・表情を例に挙げ、接遇のスキルは能動的な行動だけが手段ではないと、いうお話をしていました。今回は声を取りあげます。
 
  先日、見かけた光景です。それは総合病院での発熱外来でのことです。二人の患者さんに対応した看護師Aさんの話し方でした。Aさんは検体採取をするので感染対策のため、防護服を着ています。ですから表情などはあまりわかりません。
 一人目の患者さんは、発熱し、病院に訪れたことにとても申し訳なさそうに「ごめんなさい」と何回も言い、そしてびくびくとした様子でした。Aさんは、優しくゆったりとした話し方で「大丈夫ですよ。体調がそこまで悪くなくてよかったですね」と声をかけました。そのせいなのか、この患者さんはホッと落ち着きを取り戻したようでした。
 二人目の患者さんは、防護服で現れたAさんに、強い口調で不満を言っていました。「熱が出て困っているのに、ばい菌扱いまでするのか!俺はコロナじゃない!内科に通せ!」しかし、少しでも感染の疑いがあれば通常の外来に回すことはできません。抗原検査を受けてもらって陰性の証明をしなければなりません。
 Aさんはそこで少し低めに、穏やかであるけれども、断定するトーンで話しました。「ご気分を悪くしてしまって申し訳ありません。ですが、あなたの陰性がわからないと、正しい治療の診断はできません。そして、他の患者さんたちに感染から守るのも私たちの仕事なんです」
 その話し方に患者さんは出かかっていた文句をぐっと飲みこみました。そんな姿を見て、Aさんはさらに静かに言いました。「検査にご協力をお願いします」
 この患者さんはそれを聞いて、黙ってうなずき検体採取を受けました。
 Aさんは、この時、防護服で物々しさがある上に表情を伝えることはできません。ですが、恐れに囚われている患者さんには安心感を与えました。また、自分勝手な主張をする患者さんには説得をしました。声のトーンと話し方を変えることで対応したのです。

 立場と状況を考えて、声の出し方も考えられる。それも接遇のスキルです。

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この記事を書いた人

研修講師、地域密着ワークショップファシリテーター
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