今年度から、宮本武蔵が書き残した言葉を取り上げています。今回の一節は、『五輪書』の「地の巻」にある、五輪書を書き出そうとする心構えを述べたものです。仏教や儒教、軍記軍法などの古い言葉は使わず、自分の真実の心を表すのだと宣言しています。他人の言葉を借りたもっともらしい文にはしない、ということです。
「自分の言葉で書く」とは簡単そうに思えますが、深い経験や知識がない人からは、軽い言葉しか出てきません。武蔵は中国の古典に通じ漢文も書けたので、古語を引用しようと思えばいくらでもできました。しかし、それはしないのです。ここには、強い自信とともに、もはや他人の言葉では表現できない独自の境地に達した人の在り方が見いだせます。
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