言葉を選ぶ覚悟

雙志館館長 大嶋利佳(おおしまりか)

 前回、「どういう自分でありたいか」が、コミュニケーションの仕方を選ぶためのひとつの要素だと述べました。自分が発する言葉は、周囲の人たちにだけではなく自分自身にも聞こえ、影響を与えます。人前に立ったときに「あがっちゃってます」と口にすれば、周囲は「この人は、気が小さいんだな」と感じ、自分自身も「私はそういう人間なんだな」と思います。そんな状態では、どんなに場数を踏んでも、人前で落ち着いてふるまえるようにはなりません。
 このように、自分の言葉で自分の成長や向上を妨げてしまっている人が少なくないのは、残念なことです。
 一度、「論理的な話し方」研修を担当したとき、ひとりの受講生が笑いながらこう話しかけてきたことがありました。
 「私、バカなんですけど、私にもできますかね?」
 本人は、ちょっとした軽口のつもりだったでしょう。もしかしたらこの人にとっては「私、バカ」は深い意味はなく、ただの口癖かもしれません。
 その受講生は、きっと私から「そんなことありませんよ、大丈夫ですよ」と優しく励ましてもらえると期待していたと思います。
その場を和やかにやり過ごすためにはそうすべきでしょう。しかし、私は自分で自分を貶める人に迎合したくありませんでした。
 「まず、自分をバカ扱いするのはやめなさい」
 あえて厳しい口調でそういうと、その受講生の顔からさっと笑みが消え、固まってしまいました。その場の雰囲気は悪くなりましたが、真剣に指導する講師でありたいと思えば、いっしょに笑っているわけにはいきません。
 自分の弱みを口にすることで周囲に親しまれ、受け入れられようというコミュニケーションスタイルには、私はNoを突き付けていきたいと考えています。

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この記事を書いた人

講師道錬成道場 雙志館 館長

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