「接遇のチカラ」 (20)引いてもダメなら押してみる~思っていても伝わらない

松原里美(まつばらさとみ)

 こんにちは!第2・4月曜日を担当するコミュニケーション講師の松原です。
よりよい信頼関係とコミュニケーションのカギは自尊心です。相手の自尊心を大切にすることで信頼関係を構築する。自分自身を大切にすることで、あなたの価値が高まる。ふたつの方向の「自
尊心の尊重」が必要とお伝えしました。
 今回は、これで実際にクレームに対応した事例です。病院で、患者家族から頻繁にかかってくる電話を収束させたものです。
 コロナ禍で最近はどこの病院でも面会は禁止です。ですから、入院した家族の様子を知る主な手段は電話です。今回の発端は、入院した夫の様子を聞くために妻がかけた電話への応対でした。
 その時、担当看護師のAさんは休みでした。そこで応対したスタッフは「担当がお休みなので良くわかりません」と言い、一方的に切ってしまいました。すると、妻はクレームの電話をかけ始めま
した。毎日、しかも一日に3回以上30分以上です。「報連相ができていない」「職員の教育ができていない」など言い続けるのです。
電話に出たスタッフたちは「きっかけはこちらの悪い態度だったのだから…」とひたすら謝り続けていました。それが相手への尊重だと思ったからです。
 しかし、担当のAさんは考え直しました。「私は謝るだけの弱い立場なんだろうか。医療は対等な立場で協働するもの。むしろ私はプロとしてけん引する立場のはず。だから、逆にこっちから話
をしよう」そして、こう申し出ました。
 「ご主人のご様子は、責任者の私が毎日ご連絡いたします。私の大切な患者様ですので」
 こうしてAさんが電話をかけるようにしてから、クレーム電話はぴたりと無くなりました。
 成功の理由は、ふたつの方向の「自尊心の尊重」です。きっかけは、かかってきた電話を一方的に切ってしまい、「ないがしろにされた」と患者の妻に思わせたことでした。しかし「医療のプロ」
という価値を自覚したAさんが「私が『大切なあなた』の対応をします」と表明しました。それが、患者の妻の自己重要感を満たし、収束に至ったのです。
 コミュニケーションには、相手への思いやりが必要です。しかし、それは自分を下に置くことではありません。「よりよい関係」の構築のためにも、いま一度自分の価値を見つめ直してみましょう。

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この記事を書いた人

研修講師、地域密着ワークショップファシリテーター
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